今は昔、竹取の翁といふものありけり。

野山にまじりて竹を取りつつ、よろづの事に使ひけり。

名をば、さかきの造となむ言ひける。

その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。

あやしがりて寄りよりて見るに、筒の中光りたり。

それをみれば、三ばかりなる人、いと美しうてゐたり。

翁言ふやう、「わが朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて、知りぬ。

子になり給べきなめり。」とて、手にうちいれて、家に持ちて来ぬ。

妻の媼に預けて、養はす。

美しきこと限りなし。

いと幼なければ、籠に入れて養ふ。

竹取の翁、竹を取るに、この子を見つけてのちに竹取るに、

節を隔てて、ごとに黄金ある竹を見つくる事重なりぬ。

かくて、翁やうやう豊かになりゆく。

注1. まじりて:分け入って。
注2. 寸:1寸は1尺の 1/10 で、約 3.03 cm 。
注3. 子になり給べき:わが子におなりになるはずの。「子」は竹の縁語で「籠(こ)」に掛けた洒落(しゃれ)。
注4. なめり:「なるめり」の音便。「なんめり」の「ん」が表記されない形。
注5. よ:竹の節と節の間。