Step24−演習(2)
セロ弾きのゴーシュ
ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係りでした。けれども、あんまり上手でないという評判でした。上手でないどころではなく、実は仲間の楽手のなかではいちばん下手でしたから、いつでも楽長にいじめられるのでした。
ひるすぎ、みんなは楽屋に円くならんで今度の町の音楽会へ出す第六交響曲の練習をしていました。
トランペットは一生懸命うたっています。
ヴァイオリンも二いろ風のように鳴っています。
クラリネットもボーボーとそれに手伝っています。
ゴーシュも口をりんと結んで眼を皿のようにして楽譜を見つめながら、もう一心に弾いています。
にわかにぱたっと楽長が両手を鳴らしました。みんなぴたりと曲をやめてしんとしました。楽長がどなりました。
「セロがおくれた。トォテテ テテテイ、ここからやり直し。はいっ。」
みんなは今の所の少し前の所からやり直しました。ゴーシュは顔をまっ赤にして額に汗を出しながら、やっといま云われたところを通りました。ほっと安心しながら、つづけて弾いていますと楽長がまた手をぱっと拍ちました。
「セロっ。糸が合わない。困るなあ。ぼくはきみにドレミファを教えてまでいる暇はないんだがなあ。」
みんなは気の毒そうにしてわざと自分の譜をのぞき込んだり、自分の楽器をはじいて見たりしています。ゴーシュはあわてて糸を直しました。これはじつはゴーシュも悪いのですが、セロもずいぶん悪いのでした。